跳ぶ、走る、切り返す。相手との接触に耐え、次のプレーへ踏み出す。バスケットボールシューズは、コートで繰り返される動きに応えるために進化してきた。
その歴史を築いてきた“NIKE(ナイキ)”が、“FLIGHT(フライト)”、“FORCE(フォース)”、“UPTEMPO(アップテンポ)”を軸とする新たなバスケットボールシューズの構成を発表した。1980〜90年代の名作を知るファンには馴染み深い3つの名前が、現代のバスケットシューズとして復活する。
今回、その中心を担うのが“G.T.”シリーズだ。プレーヤーの動きに着目して開発されてきたシリーズに、ナイキ バスケットボールを代表する名称が加わる。新作を理解するために、まずはG.T.シリーズの成り立ちと、Flight・Force・Uptempoが歩んできた歴史を振り返りたい。
01 / G.T.シリーズ
G.T.シリーズとは。プレーヤーの動きから生まれたシューズ
“G.T.”は“GREATER THAN(グレーター ザン)”の略称。2021年に始動したシリーズは、切り返しに着目した“CUT”、走る動作を支える“RUN”、跳躍と着地を追求する“JUMP”という3つの方向性を打ち出した。動作ごとに異なる要求を整理し、それぞれに適したクッショニングやサポート構造を組み合わせることが開発の出発点となっている。
“G.T. CUT”が向き合ったのは、急停止からの切り返しや、相手との間にスペースを作るステップだ。横方向へ踏み込む際の安定性と、次の一歩へ移るための反応を重視する。初代の“G.T. CUT”では、足裏に近い位置にリアクトフォームのドロップインミッドソールを配置。その下にフルレングスのZoom Strobelを組み合わせ、さらに踵にもZoom Airを搭載した。複数の素材とAirユニットによって、足当たりと反発性の両立を図ったモデルである。
“G.T. RUN”は、攻守の切り替えやコートを往復する走行に目を向けたモデル。そして“G.T. JUMP”は、リバウンドやシュート、ブロックなどで繰り返す跳躍と、その後の着地を支えるために開発された。同じ試合の中でも、プレーヤーが重視する動きや好む履き心地は異なる。G.T.シリーズは、その違いをシューズ選びにつなげた。
シリーズは後に“G.T. HUSTLE”などへ展開を広げ、アスリートの声をもとに、切り返す、動き続ける、跳ぶという課題を追求していく。
技術面での転機となったのが、2024年に登場した“G.T. CUT 3”だ。ナイキのバスケットボールシューズとして初めて、ミッドソールにZoomXフォームを採用。アッパーにはシューレースと連動するフライワイヤーを組み合わせ、軽さと足の保持を追求した。G.T.シリーズは、動作別の選択肢であると同時に、新しい技術をバスケットボールへ取り入れる役割も担っている。
02 / 3つの名前
Flight・Force・Uptempo。プレースタイルを表した3つの名前
G.T.シリーズが誕生する以前にも、ナイキはプレーヤーの特徴に合わせたシューズを展開していた。
1980年代後半から1990年代にかけて、“FORCE”は力強いプレーを支えるクッション性やサポート性を、“FLIGHT”はスピードや軽快な動きを重視するカテゴリーとして知られるようになる。そこへ、コートを幅広く動き回るオールラウンドなプレーヤーに向けた“UPTEMPO”が加わった。
その違いは、シルエットにも表れていた。足首までしっかり覆うハイカット、足に沿うブーティー構造、大きく露出したAirユニット。各モデルは、選手に求められる動きや当時の技術を、外観からも伝えていた。
今回の再編では、それぞれに現代のバスケに即した役割が与えられた。Flightは爆発的な跳躍や踏み出し、Forceは力強い動きを支える安定性、Uptempoは状況判断に続く素早い反応を重視する。かつてのカテゴリーを知ることは、その名称が今どのように使われているかを理解する手がかりになる。
03 / FLIGHT
FLIGHT — 軽快な動きとフィット感を追求した名作
Flightの歴史には、プレーヤーの動きを支えるために、アッパーの構造やクッショニングを工夫したモデルが並ぶ。1980年代のレザー主体のシューズから、ブーティー構造、薄型のZoom Airへ。その変化をたどると、バスケットボールシューズの設計が大きく変わった時代が見えてくる。

1989年
AIR FLIGHT 89
“AIR FLIGHT 89(エア フライト 89)”は、1989年に登場したAir Flightのミッドカットをもとに、復刻時に定着した名称。当時はハイカットも展開され、スピードを求めるプレーヤーに向けた選択肢となっていた。
踵のビジブルAirや立体的なソールまわりには、同時期の“AIR JORDAN 4”にも通じる特徴が見られる。レザーを中心としたクラシカルなアッパーと、内部のクッション構造を見せるソール。その組み合わせが、1980年代後半のバスケットボールシューズらしさを伝えている。後年は復刻やコラボレーションを通じ、コートでの役割を知る世代と、新たにデザインに惹かれた世代の双方に親しまれてきた。

1992年
AIR FLIGHT HUARACHE
1992年の“AIR FLIGHT HUARACHE(エア フライト ハラチ)”は、足を包み込む構造を大きく変えた一足だ。ティンカー・ハットフィールドとエリック・エイバーが手がけ、ランニングシューズのAir Huaracheで採用された考え方をバスケットボールへ持ち込んだ。
伸縮性のあるネオプレン製のインナーブーティーが足に沿い、その外側をサポートケージが支える。柔らかく包む部分と、動きを支える部分を分けた構造が特徴となる。ミシガン大学の“ファブ・ファイブ”や、スコッティ・ピッペン、レジー・ミラーらの着用でも知られ、見た目の新しさと実際の競技での使用が結びついたモデルだった。

1995年
AIR ZOOM FLIGHT 95
ミッドソールに並ぶ楕円形のパーツが目を引く“AIR ZOOM FLIGHT 95(エア ズーム フライト 95)”。1995年に登場し、ジェイソン・キッドやティム・ハーダウェイらの着用によって知られるようになった。
通称“目玉”と呼ばれるパーツと、流れるようなアッパーのラインが、従来のバスケットボールシューズとは異なる外観を作り出している。機能面では薄型で反応のよいZoom Airを採用。大きなAirユニットを見せるデザインが広がる時代に、薄いクッション構造によって機敏な動きへ対応した点も、このモデルを語るうえで欠かせない。
04 / FORCE
FORCE — 力強いプレーを支えたクッションとサポート
Forceを代表するシューズには、足を保持するためのストラップや補強、厚みのあるクッション構造が見られる。デビッド・ロビンソンやチャールズ・バークレーといった選手の着用姿も、その力強い印象を作ってきた。

1982年
AIR FORCE 1 HIGH
名前の歴史を振り返れば、1982年の“AIR FORCE 1(エアフォース 1)”も外せない。ブルース・キルゴアが手がけたこのモデルは、ナイキのバスケットボールシューズにAirクッショニングを取り入れた先駆けだった。後にストリートの定番となる一足も、出発点はコートで求められる機能にあった。

1990年代初頭
AIR COMMAND FORCE
“AIR COMMAND FORCE(エア コマンド フォース)”は、デビッド・ロビンソンの着用で知られるForceの代表作。足首を高く覆うシルエットに、当時のナイキが追求したサポート機能を詰め込んでいた。
特徴的なのが、空気を送り込んで内部のエアブラッダーを膨らませ、フィット感を調整する“Air Fit System”だ。さらに、足裏からシュータンへつながるダイナミックフィットスリーブや、前後に配置したAirユニットを採用。外側から包み込む構造と、内側から足に沿わせる仕組みを組み合わせた、1990年代初頭らしい意欲的な設計だった。

1992年
AIR FORCE 180
1992年のバルセロナ五輪で、チャールズ・バークレーが着用した“AIR FORCE 180(エア フォース 180)”。ホワイト、ネイビー、レッドにゴールドを添えたオリンピックカラーは、米国代表“ドリームチーム”の足元を語るうえでも印象深い一足となる。
踵の大きなAirユニットに加え、甲にはストラップを配置。補強されたアッパーと合わせて足を支える構造が、バークレーの激しいプレーを想起させる。足首を高く覆うCommand Forceとは異なるバランスで、クッション性とホールド感を追求したモデルだ。

1994年
AIR MAX2 CB 94
バークレーのシグネチャーモデルとして1994年に登場した“AIR MAX2 CB 94(エア マックス スクエア CB 94)”は、足を包み込むサポート構造をさらに強く打ち出した。
伸縮性のあるネオプレン素材に、シューレースと連動するバンドを組み合わせ、足を保持する仕組みを構築。ソール側面の大きな凹凸や、アッパーを横切る補強パーツが、重厚なシルエットを作り出している。バークレーのリバウンドや力強いドライブを支えるための構造が、そのままモデルの個性として表れた一足である。
05 / UPTEMPO
UPTEMPO — コートを広く動く選手へ向けたシリーズ
1990年代半ば、パワーとスピードの両方を求めるプレーヤーに向けて展開されたUptempo。スコッティ・ピッペンのように、攻撃でも守備でも幅広い役割を果たす選手の存在が、このカテゴリーを理解する手がかりになる。
歴代モデルでは、充実したAirクッショニングと足へのフィット感を追求。その機能を、大きなビジブルAirや大胆なロゴによって外観からも伝えていた。

1995年
AIR MAX UPTEMPO 95
“AIR MAX UPTEMPO 95(エア マックス アップテンポ 95)”は、Uptempoを代表する初期のモデル。足裏の広い範囲を支えるフルレングスのビジブルAirと、足を包むブーティー構造を組み合わせていた。
大きなスウッシュや厚みのあるアッパーに対し、ソールには内部を見せるAirユニットが連なる。見るだけでクッション構造が伝わる外観は、1990年代のナイキらしい特徴だ。ピッペンらが着用したこのモデルには、走る、止まる、跳ぶという複数の動作を一足で支えようとしたUptempoの考え方が表れている。

1996年
AIR MORE UPTEMPO
アッパーの側面を覆う“AIR”の文字で知られる“AIR MORE UPTEMPO(エア モア アップテンポ)”は、1996年に誕生した。デザインを手がけたウィルソン・スミスは、ポップアートやグラフィティ、建築などから着想を得て、クッション技術の名称そのものを大きなグラフィックへ変えた。
足元には3分割されたMax Airを搭載。文字のインパクトに加え、その下に並ぶAirユニットが機能面の特徴を伝える。ピッペンの着用でも広く知られ、競技用シューズとしての歴史と、一目で判別できるデザインの両方を持つモデルとなった。

1997年
AIR MAX UPTEMPO 97
“AIR MAX UPTEMPO 97(エア マックス アップテンポ 97)”では、ソールの存在感がさらに強まった。側面へ巻き上がるミッドソールと、その内部に見える大きなAirユニットが、足元に厚みを持たせている。
アッパーには波打つようなオーバーレイを配置し、ヒール側には“AIR”の文字を加えた。More Uptempoが文字を前面に出したのに対し、こちらはソールの形状とアッパーの曲線によって個性を表現。同じカテゴリーでも、機能の見せ方を変えながらデザインを発展させていたことがわかる。
06 / 新作モデル
新しいG.T. Flight・Force・Uptempoは、何を重視するのか
新作3モデルでは、往年の名称に、それぞれ異なる現代の設計が与えられている。比較の軸になるのは、プレー中の動きと足裏の感覚、そして足を支える方法だ。

G.T. FLIGHT — 跳躍と着地を支える
G.T. Flightは、リバウンドへ跳び上がる動きやリングへのアタックなど、力強く踏み出すプレーに着目したモデル。フルレングスのZoom StrobelとCushlon 3.0フォームを組み合わせ、クッショニングを構成する。
アッパーにはテキスタイルのブーティーとTPUケージを採用。内側で足を包み、外側で支える構造には、Flight Huaracheをはじめとする歴代モデルと比較したくなる要素もある。新作の技術とともに、Flightが重ねてきたフィット感への工夫にも注目したい。

G.T. FORCE — 力強い動きを安定させる
G.T. Forceは、攻守で続く力強い動きと素早い切り替えを支えるため、クッション性、安定性、足の保持を重視する。ZoomX 3.0フォームを搭載し、アッパーには足を支えるアーマー状の合成素材を採用。ハイカットとローカットの両方が用意される。
歴代Forceではストラップやハイカットの構造が強い印象を残してきた。新作では、アッパーの補強とフォームの組み合わせによって、現代の多方向への動きに対応する設計を打ち出している。

G.T. FORCE HIGH
G.T. Forceはハイカットとローカットの両方を展開。ハイカットでは足首まで覆うシルエットが際立つ。

G.T. UPTEMPO — 判断を素早い動きにつなげる
G.T. Uptempoが重視するのは、コートの状況を読み、加速や減速へ素早く移るための反応だ。軽量で足裏がコートに近い構造を採用し、ZoomX 3.0、Air Zoom Strobel、踵のAir Zoomを組み合わせる。
アッパーにはエンジニアードメッシュを使用。大きなビジブルAirが印象的だった歴代Uptempoから、足裏の感覚と素早い動きに着目した設計へ、名称の意味を発展させている。
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新作3モデルの構造と開発コンセプト07 / シグネチャー
シグネチャーモデルにもつながる、ナイキの新しい考え方
Flight・Force・Uptempoは、G.T.シリーズを含めたナイキ バスケットボールのシューズ開発の基盤となる。シグネチャーモデルでは、そこへ各選手の動きや好みを反映させていく。
ナイキが示す現在の例では、レブロン・ジェームズとジャ・モラントがFlight、エイジャ・ウィルソンとヤニス・アデトクンボがForceに結びつく。Uptempoにはデビン・ブッカー、ケイトリン・クラーク、ケビン・デュラント、サブリナ・イオネスクが挙げられている。この関係は、選手のプレーの変化に応じて変わり得るものとされている。
往年のモデルを振り返ると、クッショニングやサポート構造の違いが、選手のプレーとともにシューズの個性を作ってきたことがわかる。新しい3カテゴリーも、重視する動作や好む履き心地からシューズを考えるための手がかりになる。
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シグネチャーモデルとの関係08 / 発売情報
新作の発売情報と、これまでに登場したモデル
正式発表に先立ち、スニーカーウォーズでは、AJ・ディバンツァが披露した“G.T. FlightのLED仕様”や、ハイカットの“G.T. Force”、ディラン・ハーパーが着用した“G.T. Uptempo”を紹介してきた。選手専用モデルを含むこれらの着用例からも、新シリーズのデザインをたどることができる。
G.T. Flight、G.T. Force、G.T. Uptempoは、北米で2月11日にNike.comおよび一部取扱店にて発売予定。その後、グローバルでの展開が予定されている。
また新たな情報が入り次第、スニーカーウォーズのXやFacebookなどで報告したい。








